私たちの支援について、紹介します。
第1回目は、施設利用開始から13日目で施設を飛び出したAさんについてです。
1.Aさん
ある日曜日の午後、休暇中の職員の携帯電話が鳴りだしました。着信画面を確認すると、施設利用者さんからでした。
緊急事態があれば、365日24時間、担当職員が対応する決まりになっています。
「何があったのかな?」と緊張しながら電話にでると「Aさんが『生活費がないので出ていきます』と外出簿に書き残し、施設を出ていった。声がけしたけどダメだった」と施設利用者さんから報告がありました。
こうして、利用者Aさんに対する支援は、途中で終わってしまいました。
アパートでの一人暮らしを目ざすという施設運営の趣旨からすれば、支援は失敗ということになります。反省の念を込め、私たちの支援方法と、失敗にいたる経緯を振り返ってみます。
※弊会の個人情報運用規程に基づき、個人が特定されないように情報を加工しています。
(1)支援の経過
今年で78歳を迎えるAさんは、13日前に施設を利用しはじめたばかりでした。
もともとは他団体の施設を利用していたのですが、本人によれば「当番のトイレ掃除をしていない」と叱られたり、身に覚えがないのに「糞の掃除しておけ」と責められつづけられたそうです。度重なる叱責に我慢できなくなり、その施設を飛び出しましたあと、2日間の野宿生活を経て、お世話になっている福祉事務所まで自力でたどり着いたとのことでした。「(あの施設には)もう2度と戻らない」と担当のケースワーカーさんに直訴したため、緊急入所先として、弊会施設への入所相談がありました。尚、ケースワーカーとは、福祉事務所で生活保護受給者の支援を行う担当レベルの公務員のことです。
さっそく福祉事務所へ向かい、面談することになりました。
利用者Aさんとの面談では、まずはじめに「なぜ、もといた施設に戻りたくないのか?」について質問しました。すると、上述の答えが返ってきました。
ただ、はなしはそれだけでおさまりませんでした。「もしあの施設に戻ったら、灯油をまいて火をつけてやる」とつづけたのです。その表情は真剣そのものでした。
「自分のことを悪くいった相手を『殴ってやる』とか『殺してやる』というのであれば、認めはしないけど、『仕返ししたい』という気持ちはわからないわけではない。でも『灯油に火をつけて復讐してやる』というのは、何の関係のない人たちまで巻き込んでしまう方法なので、(当事者以外で巻き込まれた人たちに)『責任をとらない』と無責任なことをいっているのと同じです。
私たちの施設は、木造の一軒家を施設に転用しているだけです。ちゃんとした社会福祉事業であれば、公的に施設整備の予算が組まれる。けれど私たちの事業は、要支援要介護の高齢者も障害区分2級以上の障害者も利用しているのに、今も昔もなぜか”まともな福祉”とみなされていないので、施設を新築・改築するための補助金なんて存在しないし、スプリンクラーを取りつける予算すら準備されていません。
ご近所には小さなお子さんが住んでいる家庭があります。職員としては、無関係な人たちをAさんの無責任さに巻き込ませるわけにはいかない。だから「灯油に火をつける」なんていう人の施設利用を認めるわけにはいきません」
今日の住まいがなくて困っているAさんの安心と、施設周辺の近隣住民の安全とを比較して、Aさんの施設利用はお断りすることにしました。
以上のように伝え、職員がその場を退席しようとしたときです。「すまなかった。そんなことはやらない。思わず、できもしない大きなことを言ってしまった」と半べそをかきながら、謝りだしました。
「もうしない」ということばを聞き、もう一度、Aさんの気持ちを確かめます。反省していると判断できたので、あらためて面談することにしました。そのとき聞き取った生育歴等は、次のとおりです。
(2)生育歴の聞き取り
・N県出身で、地元中学校卒業後、個人事業主が所有する小型船の手伝いをはじめる。炊事要員として乗船したが、実際には石炭の運搬を手伝っていた。船舶免許が取得できなかったので、3年で引退することにした。
・父母はいたが、実家にもどる気はおきなかった。仕事につくあてもなく、住居侵入や窃盗を繰り返えすようになった。住居侵入や窃盗といっても、窓や扉を壊して他人の家に侵入したわけではない。田舎だったので、鍵をかけていない家がほとんどだった。だから、鍵のかかっていない民家に忍びこみ、食べ物などを失敬していた。あとは、酔っ払って寝ている人の腕から腕時計を盗ったり、軒先に置いてある一升瓶をたくさん拾ってきて、酒屋さんに買い取ってもらったりもしていた。
・警察に何度か捕まっても、懲りずに窃盗を繰りかえしていたら、そのうち1年2~3ヶ月の実刑判決が下り、佐世保刑務所にて受刑することになった。これまでの人生で16回くらいは刑務所に入った。名古屋、月形、青森、福岡刑務所に複数回入所した。最後の受刑先は月形刑務所だった。
・こんな歳(78歳)になったいま、「もう2度と犯罪はおこしたくない」という気持ちに思い至り、堅く誓いをたてて出所した。受刑中に関わりのあった韓国系キリスト教会も、生活立て直しに協力してくれることになっていた。
・受刑前に縁あって生活していた都内下町エリアへ戻ることに決めていた。受刑中に貯めた作業報奨金を取り崩しながら、ビジネスホテルに泊まることにした。新しい生活をはじめて数週間が経った頃、スカイツリー周辺を歩いていたら急に体調が悪くなり、歩道で倒れた。通りすがりの人が救急車を呼んでくれ、入院することができた。入院先で「医療費が払えない」と告げると、生活保護を利用できることになった。
・退院後に住む場所がなかったので、福祉事務所から施設を紹介された。施設で生活をはじめてまもなく、「当番のトイレ掃除をサボっただろ」とか、「糞の掃除しておけ」と、身に覚えのないことで寮長から叱責を受けるようになった。つくづく嫌になって何度も施設を飛び出した。けれど、警察が施設まで連れ戻してしまう。最近は施設のヤツら(職員)が、食事にクスリを「混ぜやがる」。だから、飛び出して逃げてきた。
(3)生活状況の聞き取り
続けて、職員から「わたしたちの施設では飲酒は問題を起こさなければ目をつぶるけど、施設内であろうと居室内であろうと喫煙は認められない。指定した場所だけで吸ってください」と施設内規則について伝えました。
「入院したとき、医者から『肝臓が悪い』と指摘されたので、もう酒は飲まない。タバコもちゃんと喫煙場所で吸う。さっきひどいこと(灯油をまいて火をつける)を言ってしまったので、ライターは職員に預ける」と自ら申しでて、約束してくれました。
正直に話さないといけないと感じたのか、「昔は(反社会的勢力の)Y組の〇〇に世話になっていた」とも教えてくれました。
生活保護制度であれ社会福祉施設であれ、反社会的勢力とのつながりのある人は利用することはできません。もちろん、しっかり反省して、いまは反社会的勢力と縁を切り、まっとうに生き直そうとしている人であれば両制度とも利用できます。生き直そうとする人にこそ支援したいと考え、行動している支援者も少なくありません。
うっかり反社会的勢力とのつながりについて発言してしまったAさんに対しては、現在もその関係が続いているのか、しっかり確認しました。本人が「(反社会的勢力との)もう関係はない」「そういうことは言わない。(そういう発言をして)悪かった」と謝罪し、福祉事務所経由での警察照会でも問題がなかったため、施設利用の契約を締結することにしました。
(4)事前情報のすりあわせ
上述のとおり、本人からの聞き取りは終わりました。次に、これまでの生活について知っている関係者がいれば、その人たちからも聞き取りを行い、事実関係の確認を行います。もし説明がなかったり、あるいは異なっていれば、その点について、さらに分析を加えていきます。
担当ケースワーカーさんからの説明は、以下のとおりでした。
「施設利用直後から、失踪を繰り返していた。そのたびに万引きをしてしまい、警察に保護され施設に送り届けてもらっていた。今回は失踪のあと数日間所在不明だったが、そのあとひとりで福祉事務所までやってきた」とのことでした。
事実と理由は異なっていましたが、「施設を複数回失踪して、警察に送り届けてもらっていた」という事実と、おおまかな経過は、Aさんの説明とおおよそ一致していました。
他方、複数回「万引きした」ことについては、Aさんからは説明がありませんでした。
(5)支援のための生活課題を明らかにする
以上の聞き取りをふまえ、アパートで1人暮らしをするという目標を実現する上で問題となりそうな生活課題を選定していきます。本人や担当ケースワーカーさんからの説明をふまえ、気になった点とその理由をあげると、次のとおりです。
①実際に粗相があった/なかったについてはわかりませんが、前回利用していた施設では叱責があり、本人が腹を立てていたこと。
→少なくとも「叱責されている」ということは理解できているか。
→歳相応の認知能力や身体機能の衰えという課題を抱えていないか。
②嫌なことがあると「その場」から飛び出すこと。
→批判や否定的な言動に対して拒否感がとても強く、あるいは我慢することが苦手ではないか。
③生活に困りだすと食材等を「万引きしてしまう」こと。
→職員に説明しなかったことから判断して、自分が不利になることだと理解しているか。
自分に不利になると判断できているとすれば、不都合なことや不利なことは職員に言わないかも。
とすると、認知機能はそれほど衰えていないかも。それとも不安定さはあるかも。
→あるいは、おなかが空いたという状況に追い込まれると、万引きしてもしかたがないという善悪判断の偏り(認知の歪み)がみられるのかも。
④高齢にもかかわらず、数日間の失踪ができること。
→路上生活に対する抵抗感が少ないとすれば、路上生活者特有の考えかたを抱えている(認知の歪み)かも。
そこには障害特性が隠れている可能性もあるかも。
→路上生活に陥っても、何かしらのかたちで支援(機関)につなげてもらえるという社会に対する「甘え」、あるいは信頼があるのかも。
⑤食事にクスリを混ぜられていたという感覚があること。
→服薬拒否に対応する等の利用で本当かもしれないし、被害妄想的になっているだけ、あるいは精神疾患的な体験をしているのかも。
⑥78歳という高齢であること
→身体機能や認知機能の衰えは歳相応の範囲内におさまっているだけなのか。認知「症」の(初期)症状、あるいは障害特性や精神疾患があらわれている可能性はないか。それとも認知の歪みのような性格的な問題を抱えてるのか。
ほかにも課題を見つけだすことはできますが、施設利用にあたり、とりあえず押さえておきたい生活課題はこのくらいとしました。それ以外の課題については、施設での生活をとおしてはっきりさせていけばよいからです。
そんなことより忘れてはいけないことは、こうして取り上げた課題はどれも、これまで生きてきたなかで抱えこまざるをえなかった、もっと根深い課題のあらわれにすぎないのではないかということです。
では本当の課題とは何か。それは「中学卒業後と同時にはじめた船乗り見習いを辞めたとき、両親のいる実家に帰らなかった」という語りに見いだせるのではないかと感じました。両親の元に帰らなかったのか/帰れなかったのか。この問いに対する答えのなかにこそ、Aさんが抱えこんでいる本当の課題の糸口が見いだせるのではないかと感じました。
生まれてからものごころがつき、そして社会で一人前として生きていけるようになるまでのあいだ、はたして自分のことを受け入れて育んでもらえる環境があったのか。あったとして、それは続いていたのか。生育歴をとおして生活課題を明らかにしていくという視点は、少なくとも私たちの支援には、なくてはならないものであり、むしろこの手法こそが私たちの支援の真骨頂だと感じています。
と、偉そうに語ってみたところで、最初の聞き取りでは、そこまで聞き取ることはできませんでした。
では次に、取り上げた課題にどのように取り組んでいくのか。支援方針の設定とその実施方法を決めていきます。
(6)支援方針の設定と実施方法
私たちは日常生活支援住居施設の認定をうけた無料低額宿泊所を運営しており、各種法令及びその法令に基づいて制定された施設運営規程に従わなければなりません。この点をふまえ、総合的な支援方針としては「施設利用をとおして生活課題を精緻化していき、それに対応する社会サービス等を利用できるようにすることで、ひとり暮らしを目指すこと」と定めました。
この基本方針を実現するために、さらに以下の個別方針をたて、支援を組み立てることとしました。
・粗相の有無、被害妄想、精神疾患や認知性なのかそれとも性格的な問題か等については、施設での生活状況をとおして評価し、対応策をとっていく。
・高齢なので通院先の確保や介護サービス利用の調整を行い、上記課題が明らかとなった場合でも対応できるように準備する。
・自炊訓練をおこなうため計画的な金銭消費ができるか確認する。
・施設利用終了のしかたは、突然飛び出すのではなく、話しあったほうが特だと納得できるようにする。
以上の個別方針をふまえ、金銭管理を施設利用の条件としました。金銭消費能力の確認をとおして生活課題を明らかすることが目的で、期間は1ヶ月から3ヶ月のあいだとし、問題がなければ自己管理に戻すを約束します。具体的には、いったん施設側で生活費を預かり、1週間に一定額を渡して金銭消費能力と状況を確認します。
この提案に対し、渋ることもなく、Aさんは快諾してくれました。
その他、前の施設を飛び出し福祉事務所へやってきたため、着替えもない状況でした。福祉事務所に相談すると、ご厚意で、下着とスウェットを提供して頂くことができました。さらに衣類等を含めた荷物を返してもらえるか、以前利用していた施設に問い合わせていただくことも、快諾して頂けました。
転出入手続きや通院先調整を施設職員側で行うことに対しても、Aさんは同意してくれました。
以上は支援の事務的側面ですが、いちばん大切にしたい取り組みは、施設利用開始後、あいさつや雑談をとおしてAさんとの(信頼)関係づくりに取り組くみながら、幼少期の家族関係等について確認していくことです。過去の話をとおしてよりAさんの抱えている生きにくさを明らかにしていく必要があるのではないかと見立てていました。
(7)支援過程ー施設入所当日
・入所当日のAさんはとても張り切っていました。ほかの利用者さんへ積極的にあいさつし、施設のルールにも従おうと努力していました。
・施設利用者さんとの顔合わせのときも冗談をいったり、みんなの前で「タバコは止める」と宣言し、面談時の約束どおりライターを預けてくれました。
・気になった点は、少し、頑張りすぎているように感じられる点です。もちろんすべての人に当てはまるものではないのですが、途中でうまくいかなくなる人ほど、最初に張り切りすぎて気持ちが続かず、途中から悪い意味でダメになってしまう、開き直ってしまうということが少なくないからです。
〇入所2日目
・安否確認時、ふとんの汚れに気がつきました。許可をとって確認すると、カップラーメンの汁汚れでした。
・認知検査や病気の有無の確認もかねて、病院に受診予約を入れました。
・このころのAさん自身は、近くのコンビニやスーパーまで外出しても、施設まで戻ってくることができており、認知機能の低下はみられませんでした。
〇入所3日目
・以前入院していた病院から医療情報提供書が届きました。「入院中に何度も不平不満の表出・易怒(いど)性あり」また、「病状などの説明へもご理解がない状態でありましたので、今後も専門的治療も難しいのではと考えております。喫煙についても誰に言われようとも継続されるとのことでした」との特記事項がありました。
・入所当初は禁煙を宣言していましたが、なかなか難しいらしく最近は喫煙をはじめました。とはいえ、喫煙ルールは守っており、落ち着いた様子で生活していました。
・居室確認すると、細かい食べかすやゴミが床に散乱していました。歳相応の衰えがあるのではないかと見立て、すみやかに介護サービス利用調整の段取りをつけることにしました。
・以前利用していた施設の職員さんが、Aさんの荷物を届けてくれたと担当ケースワーカーさんから連絡がありました。福祉事務所まで本人の代わりに職員がとりに行きます。
〇入所4日目
・住民登録のための手続きを行います。
・施設利用者さんから「トイレが便で汚れている」と報告がありました。Aさんが入所するまで、トイレ汚れの問題はなかったので、ADHD、さんがトイレを汚している可能性が高いのではと見立てられます。ただし、状況証拠による推測にすぎないため、決めつけることまではできません。
ここで職員は判断を迫られることになります。施設運営の趣旨からすれば、Aさんに退所してもらうことも、継続利用してもらうこともできます。利用継続を認めた場合、認めた職員に責任が生じることになります。Aさんの場合であれば、トイレ汚れが見つかるたびに認めた職員が掃除したり、利用者さんからの苦情に対応したりしなければらなくなります。
職員間で話しあった結果、介護支援のある高齢者向け施設に異動できる道筋はつくろう。介護サービスを利用できるまでは施設利用してもらい、そのあいだは職員で対応しようということになりました。他の施設利用者さんに迷惑がかかるため、事情を説明し、納得してもらえるように努めます。やはり、しぶしぶという人もいましたが、最終的には、みんな協力してくれることになりました。
〇入所7日目
このあたりから、Aさんの抱える課題が、はっきりと把握できるようになっていきました。
・休日を挟んで出勤すると複数の利用者さんからAさんについて「トイレの尿漏れと便汚れがひどい」報告がありました。前の施設での叱責に対して、Aさんは「理不尽だ」と怒っていましたが、どうやらトイレ粗相は本当にあったらしく、「自分で掃除しろ」と言われていただけのようです。
・安否確認のためAさんの居室を確認すると、強烈な異臭が漂っており、よくみるとゴミ袋に便汚れのようなものが付着していました。中には便汚れのある下着類も入っていました。汚れたゴミ袋を破棄し、換気しながら、居室清掃を行いました。Aさんに自覚があったかはわかりませんが、気持ち悪く感じて、下着類をゴミ袋に捨てたのは確かなようでした。
・しっかりしている時間帯とまだらに認知症の症状が現れる時間があるのかもしれないと見立てました。
〇入所8日目
・利用者さんから「Aさんが『隣の家の人間から写真を撮られた』や『あの家がTVの電波を妨害している』等の発言があった」と報告がありました。
・どうやら認知症に起因する妄想だけでなく、あるいは統合失調症のような精神疾患上の課題を抱えているのではないかと見立てられるようにもなってきました。
・夕方頃には警察署から「Aさんが迷子になって保護されている。「千葉県の市川から来た」といっているので混乱しました」と電話があり、ご厚意で施設まで送り届けてくれました。
〇入所9日目
・利用者さんから「またトイレが汚れていた。Aさんの居室前の廊下にも便が落ちていた」と報告がありました。だんだんと施設の他利用者さんのいらだちが募ってきていることが感じられるようになります。
・予約日に通院し、介護保険利用のための診断書を入手できれば、施設異動の調整がつくので、それまでのあいだ我慢してほしいと他利用者さんにお願いと説得を続けます。
・本日は保護支給日のため、利用料を支払ってもらい、続けて金銭管理契約に基づき生活費を預かりました。今日は意識がしっかりしているのか、お金を取られるというような被害妄想もなく、素直にお金を預けてもらえました。1万円を手渡したあと、(4日後の)来週月曜日にまた生活費を渡す旨、約束して、別れました。
〇入所10日目
・偶然だったのですが、職員がトイレ掃除したあと、すぐにAさんがトイレに入ったので、トイレ使用後を確認しました。すると貯水タンクやトイレットペーパーホルダーが汚れが確認できました。お尻を拭くとき、手に便がつき、そのままトイレ内を触っているような汚れかたでした。意図的か否かはさておき、Aさんがトイレを汚していることが、はっきりとしました。
・住民登録手続きの一環として転出届を郵送してもらう手続きを済ませていたのですが、役所から「本人確認をしたい」と電話がありました。
本人にその旨伝えると、「以前の施設でオレの了承を得ることなく勝手に住所を変更された」と興奮気味に話し始めました。誤解を解くと、快く電話に応じてくれました。
・職員がはなしを聞き入ったことで安心したのか、「実はオレは霊感が強い」「ときどき女の声や男の声がする」と教えてくれました。
・このときAさんからアルコールの匂いがしており、入所面談時には「お酒は飲まない」と言っていたにもかかわらず、どうやら飲酒しているということに気づきました。指摘はせずに、そのままはなしを聞いていると、刑務所での生活や前の施設でのことについて、床にヨダレを垂らし、感情的になりながらはなしを続けました。酒癖はよくないように感じられたので、「飲酒してトラブルを起こしたら退所となる」旨、注意しました。
・それよりも気になったことは、「男女の声が聞こえる」といった発言が、認知力低下に起因するものなのか、統合失調症のような精神疾患を抱えているのか、はたまた本当の話なのかという点です。すみやかに精神系の医療機関につなぎ、確認しなければいけないと判断し、認知機能検査と並行して検査してもらうこととしました。
〇入所12日目
こうして、冒頭のはなしにつながります。この日は休日のため職員はお休みです。そのため施設利用者さんから「Aさんが出て行った」と電話報告がありました。
いまから施設に駆けつけても本人を見つけることはできないため、警察の連絡を待つことにしました。
〇入所13日目
福祉事務所から「Aさんが福祉事務所まで来ている。迎えに来てほしい」と電話連絡がありました。社用車の調整をしてから折り返し連絡する旨、約束し、いったん電話を切りました。
迎えの準備をしていると、「(Aさんの居室から)強い異臭がする」と苦情があったため、確認することとしました。すると、居室内で喫煙しており、床にタバコの吸い殻と灰が落ちていました。さいわい床材が不燃材だったので、火事にはならなかったのですが、タバコの火による焦げ跡が、はっきり見てとれる状態でした。
放火の意図がなくても、居室内喫煙は即時退所事由のため、ケースワーカーさんに説明して退所とせざるをえませんでした。
本人は「施設に戻りたい」と述べていたようですが、スプリンクラー等の防火設備が整備できない私たちの施設では、どのような理由であれ、火のトラブルを起こした場合は退所とし、例外は認めないこととしています。それは、近隣住民や他の利用者さんとの約束でもあります。
それから数日後、千葉県市川市の警察から「Aさんがそちらの施設に戻りたがっている」と電話がありました。経緯を説明してお断りせざるをえません。念のため担当のケースワーさんにその旨情報共有すると「あさひさんから断られたあと、どうしても「別の施設には行きたくない」と拒否し続けて、福祉事務所を飛び出してしまい、行方知れずとなっていました」と教えてくれました。
コメントをお書きください